木村尚人 Version2.0


中学校3年の時にある同級生の女性に恋をしました。それまでも女性に好きという感情を持つことはありましたが、ここまで深く真剣に相手のこと自分のことを考えたことはありませんでした。このときVesion2.0にバージョンアップした思います。

  • 心底人から好かれたいという気持ちが芽生える

  • 客観的に自分を見ることを覚える

  • 人間の心理について興味を持つ

  • 努力だけではどうにもならないことがあることを知る



初めての恋愛について書きます。初恋ではないのですが、真剣に人を好きになったのは初めてでした。それは中学校3年生の時です。


彼女との出会い


彼女と出会ったのは中学校2年のクラス替えのときです。最初の印象はお嬢様っぽくて澄ました感じだな、というものです。英語や国語、社会といった文科系の勉強の成績が良く、この科目では勝てませんでした。私は、数学や理科が得意だったのでこちらでは勝てていましたが、密かにライバル視していました。女性としてよりは競争相手という感じで見ていたと思います。


指揮者とピアノ伴奏者の関係に


彼女は両親とも中学校の先生ということもあってか教育が熱心な家庭で育ったようで、ピアノも習っていたのでしょう、クラスでは一番ピアノが上手かったのです。また彼女は吹奏楽部でサックスをしていました。私はというと当時のカラヤンというカリスマ的な指揮者の影響もあって、とにかくクラシック音楽にはまっていました。二人の間には音楽という共通領域があったのです。それが現実の世界で二人を結びつけることになりました。文化祭のクラス対抗の合唱コンクールで、私が指揮者に彼女がピアノ伴奏者に選ばれたのです。


席替えで急展開

二人の関係が大きく動いたのは中学校3年の2学期の始め、席替えの後でした。二人の席が隣同士になったのです。もともと合唱の指揮者とピアノ伴奏者として音楽で結びついていた二人でしたが、毎日隣同士話をするうちに音楽以外の共通点を見出します。まず本好きなこと。当時私はスタンダールの「恋愛論」を読んでいました。タイトルは忘れましたが、彼女も恋愛に関する小説を読んでいたので、二人でよく恋愛とはどういうものか話をしていました。すっかり打ち解けた二人は互いの得意な科目について教えあったりもしました。特に私は彼女から英語や社会のノートを借りていました。成績のいい秘訣はノートの取り方にあるんだな、ということをしみじみと感じたものです。


さらに急展開


二人の関係がさらに深まったのは、彼女が私のノートに書いたある落書きからでした。彼女が私のノートに書いた文字列は「iieo」というものでした。この不思議な暗号のような文字に私は一か月悩まされることになります。その間にも二人は音楽のこと、文学のこと、そしてクラスの人間関係のことなど色々と話をし、考えを共有しました。合唱の練習に関して二人だけで遅くまで残っていたこともありました。もう二人は分かっていました。お互いに好意を持っていることに。例の暗号に関しても彼女から色々とヒントをもらっていました。そしてある時その暗号が解けたのです。「I 〇i〇e 〇o〇」。あるフレーズの一文字ずつ飛ばしたのが例の文字列でした。「I like You」。その文字が浮かんだその瞬間、私は恋に落ちました。中学校3年生で恋に落ちた、などオーバーかもしれませんが、その後の何度かの恋愛の経験と照らし合わせてもあれほど世界が変わった瞬間はありませんでした。


二転三転


晴れて二人は両想いになりました。毎日隣の席同士でいつでも話ができ、放課後は音楽室で二人だけで過ごす時間。さらにそれにも飽き足らず、彼女の社会のノートとに密かに封筒を張り付けて、そこに手紙を入れて文通のようなことも始めました。当然クラスでも二人の関係は噂になります。二人とも成績が良く、合唱の指揮者とピアノ伴奏者で目立つ存在です。当然やっかみも邪魔も入りました。ですが、そんなことは一切気になりませんでした。一言でいうと浮かれていたのです。少なくとも私は。 彼女の様子が変わったのが二人を結びつける発端となった合唱コンクールが行われた文化祭の後でした。合唱コンクールでは残念ながら二位でしたが、それでもまあまあのできでしたし、それほど落ち込むようなことではありませんでした。ところが翌日から彼女が全く話をしてくれなくなったのです。当然手紙もこなくなりました。隣の席ですからときどき顔を向けてくれたり、わずかな反応はあるのですが、コミュニケーションは一方的に絶たれているような状況です。それが一週間続いたでしょうか、とてもつらい毎日でした。そして永遠に続く苦しみのように感じました。今、女性から相手の男性から連絡が来ない相談をよく受けるのですが、この当時のことを思い出すとその辛さ苦しみが痛いほど分かるのです。


告白


それは授業が終わった後、帰り際に彼女から受け取った社会科のノートから始まります。受け取った瞬間、そこの封筒に手紙が入っているのが分かりました。しかもかなり分厚いものであることも。90%の不安と10%の期待を抱いて速攻帰宅し、その手紙を読みました。そして当時の無垢な僕は衝撃を受けました。

彼女には中学校2年当時付き合っていた男性がいたこと。それは一年上の吹奏楽部の部長であるAUさんであること。彼とは去年の冬に別れたこと。その原因が二人で部活のあと音楽室に残っていた時に、AUさんからキスを迫られそれを断ったことが原因であること。そしてついこないだの文化祭で高校生になったAUさんが来ていて、それを見た瞬間彼に気持ちが戻ったこと。などでした。

今から思えば大した内容ではなかったかもしれませんが、そのときは相当ショックでかなりふさぎ込みました。ちなみにAUとは英雄を略したもので、その先輩の名前が英雄(ひでお)というところから来ているのですが、彼は結構目立つ存在で芸術家風な面持ちをもった男性でした。多少自分とは趣が違う人間で、ああ彼女は実はああいう男性が好きだったんだ、と自分がひどくみじめな気持ちになったことを覚えています。


その後


その後は色々と小さい出来事がありました。私は彼女の気持ちを引こうと色々と頑張りましたが、うまくいきませんでした。スタンダールの「恋愛論」を読み直しました。「赤と黒」を読んで男女の心理の動きを勉強しようとも思いました。ドフトエフスキーの「白夜」を読み昔の男性にあっさりと戻る女性の理不尽さを知り、愕然としました。彼女への手紙には「君は『白夜』の中に出てくるナースチェンカと同じようにひどい女性だ」と恨みつらみを書いたりもしました。いずれも今となってはいい思い出です。

とにかく毎日毎日色々と考えて行動し反省する毎日でした。すべては彼女の気持ちをもう一度取り戻すためだったような気がします。ですが、当時自分がもがき苦しんでやったことすべてが自分の血となり肉となり大きく自分を成長させたと思っています。世界が全く違う風景にそして違う色に見え始めました。


中学校卒業、そして・・・


それから彼女との会話も増え始め普通の同級生と話すようなところまでの関係には戻りました。ですが、私はまだ彼女のことが好きでたまらず何度もアプローチをしました。ですが、最後卒業式の後に渡された手紙できっぱりとあきらめました。「私はやっぱりAUさんが好きです。色々と楽しかったです。」そういう内容が書かれていました。二、三日雪の降る中あてどもなく市内を歩き回った記憶があります。

一人が寂しく、クラシック好きな同級生だった友人のところを訪ねたこともありました。残念ながらそのときその友人は忙しかったらしく私を家に入れてくれませんでした。15年ほど前の地元の同窓会で、彼は私にそのことを謝ってくれました。「あの時の木村の悲しそうな顔を今でも覚えている。あのとき一緒に入れなくてごめんな」と。やせ細って頭の毛が抜けた頭を隠すためにずっと帽子をかぶっていた彼は、それから三か月後癌でこの世を去りました。死ぬ前に一言私に謝りたくて無理をして同窓会に出席してくれたと聞きました。


私は第一志望の高校に合格し、彼女は残念ながら不合格でした。県で一番の進学校に進んだ私と予備校に通う彼女。立場が入れ替わりました。数か月後の夏の終わりに彼女から一通の手紙が来ました。とても気持ちのこもった嬉しい手紙でした。ですが、私は返事を書きませんでした。きっぱりと彼女はあきらめると卒業式の日にあきらめたからです。


自分を変えたい。もっと魅力的な男性に人間になりたい、と心底誓ったからです。


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