男の子は手に持った箱を静かに空けた。中にあるある物体を不思議そうに一瞥した後、説明書を取り出し静かに読み始める。その物体に触れることをためらうように、わざと時間をかけて読んでいるようだ。周囲の人間は、はやく手に取るように促す。どうやら周囲の人間はその男の子にある贈物をし、それを一刻も早く使ってほしいようだ。
男の子はゆっくりとそれを取り出す。メガネだ。一見何の変哲もないメガネのようだ。なにか禍々しいものを取り出すように男の子はそれでも周囲の期待に応えるようにそのメガネを手に取る。
一瞬の間があり、彼は周囲を見渡す。明らかにそのメガネをかけることを躊躇している。まるでパンドラの箱の空けるのをためらうかのように、そのメガネをかけることをためらっているのだ。「さあ、○○メガネをかけてみるのよ」周囲の雰囲気からそんな心の声が聞こえてくる。
ようやく、意を決したように一見何の変哲もないメガネをかける。そしてすぐに取り外す。明らかに何かにためらっている。周りの大人たちが期待を込めて聞く。「どう?」
何も言わず、彼はもう一度メガネをかけ、周囲を見渡す。そして、目の前に置かれた色とりどりの風船に釘付けになる。少年の動きが止まる。あきらかに風船を凝視しているのだ。かすかなうめき声が聞こえ、首を横に振る。
このメガネ、みなさんはどういうメガネか、知っているだろうか。知っている人もいるだろう、あるいは想像できた人もいるかもしれない。
このメガネ、実は色盲メガネである。
色盲メガネ
このメガネ、実は色盲メガネである。色弱のため、一部の色への感度が低いため、我われ通常の目をもっている人間の世界と明らかに、違った世界が見えている人がいる。おそらくは、一部の色が褪せて見えたり、区別がつかなかったりと、彩が乏しい世界が見えていることはだいたい予想がつく。そういう世界に慣れてきた人にとっては、この色盲メガネをかけることによって見える世界はは、さぞかし華やかで、美しい世界が見えたことであろう。そのときの驚く、そして、今まで見てきた世界がなんと味気なかったか、その悔しさ、そして今目の前に広がる色鮮やかな世界への感動、それらが相混じって、戸惑い、驚き、そしてしまいにはほとんどの反応は、涙を流すのである。
このように、あるキッカケを元にして、今まで見えてきた世界と異なる世界が見えるようになることは我々にもしばしば起こる。ほとんどが、大きな出来事に遭遇したり、あるいは運命的な出会いに寄ることが多い。もちろんこの色盲メガネのように、技術に発展によることもある。とにかく、今まで見える世界が変わることがある、という事実。それによって我々の感じ方、行動が変わるという事実。これらのことより、この世界の見え方が変わるメカニズムが、いかにして起こるか、これについて、深く調べることは大きな意味があることは、間違いなさそうだ。
視点の変更
この世界の見え方が変わるメカニズム、いろいろと理由はあるかもしれない。だが、一つだけ言えることは、このと我々は今までの見る視点が変わっているということである。見る位置や、見る角度・方向、これらが変わるということである。また今回の色盲メガネのように、自分に何かが取り入れられる時のフレームが変わっているケースもあるだろう。それも含めて視点と名付けることにしよう。
視点が変われば、世界が変わってみるのである。
このような仮説に基づくと、今まで見えなかったものが見えたり、まるで違った色に見えたり、違った形に見えたり、世界がまるで別な様相に見えるようにするには、視点を変えればいい、ということになる。
色盲メガネのもう一つの秘密
色盲メガネは、色弱の方々の世界の見え方を明らかに変えている。しかし同時に、この色盲メガネはそれ自体が視点の変更によって生まれた産物なのである。医学的な詳細は省き、おおまかにいうと、色弱の原因はある波長の光への感度が低いことによっておこる。したがって、これを治すには、この感度を高める必要がある。これが普通の視点である。それに基づけば、色弱の人の目を感度が色への感度を高める、特定の色の強度を高めるメガネをつくる、などが考えられる。だが、これらの方法では色弱の問題は解決できなかった。視点の変更が必だったのである。
実はこの色盲メガネ、特定の色の強度を上げるのではなく、他の色の強度を下げたのである。技術的にその方が簡単だし、メガネという軽量で安価なものには必要な条件を満たしたわけである。弱いものを強める、という視点ではなく、弱くないものを弱いもの合わせる、という視点で、バランスを取り、それによって、色の違いを引きだしたというわけである。
まさに視点180度、変えたことによる発明と言えよう。
世界を変える=パラダイムを変える=視点を変える
我われが成長し、飛躍し、バージョンアップするとき、世界は変わってみる。世界が変わって見えなければ、これまで見えなかったものが見えるようにならなければ、バージョンアップはしない。世界の見え方、それは我々の色盲メガネのようなフレーム、すなわちパラダイムを変えることである。そしてそのパラダイムを変えるには、日ごろから視点を変えて物や出来事を見る訓練をする必要がある。これから日常生活の中で、この視点を変える方法について語っていきたいと思う。
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